無能な連中の存在価値
せっかく織田信長を主題として取り上げたのです。同じく戦国時代から無能に関係しそうな言葉を取り上げてみましょう。
「暗君無し」と謳われた薩摩島津家を戦国大名化させたとされる島津忠良(日新斎)は、教訓を込めたいろは歌の1句でこのように綴っています。
名を今にのこしおきける人も人も 心も心 何かおとらん
後世に名を残すような人も所詮は人。心も人物も我々と大差ないので、「あのようにはなれない」と腐らない事が大事である。
また、関東で勢力を広げた戦国北条家の2代目当主・北条氏綱も、臨終の際に息子に当てた遺言の1節でこのように伝えています。
侍中より地下人、百姓等に至迄、何も不便に可被存候。惣別、人に捨りたる者はこれなく候。
器量、骨格、弁舌、才覚人にすくれて、然も又、道に達し、あつはれ能侍と見る処、思ひの外、武勇無調法之者あり。又、何事も不案内にて、人のゆるしたるうつけ者に、於武道者剛強の働する者、必ある事也。
たとひ片輪なる者なり共、用ひ様にて重宝になる事多けれは、其外は、すたりたる者は一人もあるましき也。高い身分にある者から下々に至るまで、無価値不要な存在などいない。
一見してめちゃくちゃ有能そうでも、拍子抜けすることはある。逆に周囲が無能と称する者が、戦場では大活躍することもある。
身体欠損者も用い方次第でとんでもなく有能になるので、捨てる以外に無い無価値な存在など1人もいないのである。
残念ながら、人は1つの事象だけで相手のすべてを決めてしまいます。
例えば成功や大成をネタにした自己啓発でありがちな、「無能の特徴〇選!」だとか「成功者はみんな✕✕している!」みたいなのが最たる例でしょうか。
1分野や1つのやり方だけを見て無能な人は、所詮その分野ややり方において無能である以上の意味を持ちません。それを「どうせどこで何をしていても同じような結果しか出せない」と語るのは、その辺の下っ端ならともかく人を率いる立場で言えば視野狭窄と言わざるを得ません。
自分が無能と思えば、自分が有能になれる方法を探す。無能な部下がいれば、無能なりの使い道をしっかり考える。そうやってしっくり嵌まる方法やポストを確立すれば、いくら無能でも「まったく結果が出ない」なんて状況、まず無いんじゃないでしょうか?
真の無能は……
まあなんだかんだ言いましたが……残念ながら本人の意識が変わらない限りどうしようもない奴も当然いますね。
言ってしまえば、自分を無能とは欠片も思っていない人。これに関しては、得意を活かしてやる以前に踏むべき工程があります。
自分を有能とまではいわないまでも「絶対正しい」などと思い込み、自分と少しでも違う人間がいたら「間違っている」と猛非難……たまーにいるんです、こういう人。
こんな人たちは大方プライドが高く自分の非を認めないので、得意なやり方にシフトさせていくのが非常に困難です。
周囲はそのプライドを傷つけない(周囲に被害が飛び火しない)ようにやんわりと、さりげなく方向修正を促す必要が出てくるでしょう。
ゼークトの組織論で語られる「働き者の無能」とは、こういう人たちを指すのかもしれませんね……。
逆を言えば、自分を「無能」と自覚してしまった人は、その時点で本当に無能かどうかは怪しいところ。
一度自分の得手不得手を見直して得意を使っての課題解決に重点を置くことで、無能のレッテルを剝がしていきましょう。
無能の正体は「向いてない事をしている人」
結局、世の中のどこを探しても、「完全無欠の何をやっても様にならないゴミみたいな無能」なんてファンタジーみたいなもんです。
自分のできる範囲と得手不得手を知り、その上で現状打破のための策を練る。ここまでやれば、周囲の身勝手なレッテルはともかく実際の無能は脱却したも同然です。
とにかく真の無能――もとい頭の悪い人は、自分の能力も理解せず崇高そうな事ばかり吠えるものでして……自分がそっち側の人間に堕ちてしまわない限り再起のチャンスはいくらでもあります。
「得手不得手を探せなかったのは自己責任」「得意がわからないなら無能じゃん」って声もあるかと思いますが……個人的にはそういう「厳格な聖人」を気取ったような虚無な言葉を並べるより、自分の無能さを理解してる人のほうが遥かに賢い気がしますね。
とにもかくにも、無能の自覚は有能な人間への第一歩にして、人として一定以上の聡明さを持った証である。私はそう思います。
つまらん無能の定義とやらに振り回されず、しっかり前を見て進みましょう。
島津忠良のいろは歌から、こんな1句を引用しましょう。
酔へる世もさましもやらでさかずきに 無明の酒を かさむるはうし
この迷い多き世の中、迷いをひたすら重ねるのは恥ずべき事(ただまっすぐ前を見て進め)
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